大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 昭和25年(行)17号 判決

原告 岩川佐太郎 ほか三名

被告 静岡県農業委員会

一、主  文

三島市字二ノ乗三十八番地の三宅地九十四坪五合五勺に対する三島市三島地区農地委員会のなした処分に関し原告のなした訴願を棄却した被告の昭和二十五年二月二十八日付の裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として次の通り述べた。

一、三島地区農業委員会(当時農地委員会で以下地区委員会と略す)は昭和二十四年九月七日原告等所有の三島市字二ノ乗三十八番地の三宅地九十四坪五合五勺に対し、現況畑として自作農創設特別措置法(以下自創法と略す)第三条により買収計画を定めたので原告等は同月十三日同委員会に対し異議申立をなしたところ同年九月二十七日却下せられ、次いで同年十月六日に提起した訴願は昭和二十五年二月二十八日付を以て被告委員会より棄却せられ、その裁決書は同年三月十日に原告に到達した。

二、しかしながら本件裁決は次の理由により違法の処分として取消さるべきである。

(1)  本件係争地は宅地である。若し然らずとしても小作地ではない。原告等は大正十四年五月以来本件土地を訴外塩坂簑吉に宅地として賃貸し同訴外人は同地上にコンクリート製造工場を建設し、同建物は昭和十二年十二月末までそのまま存置されていたのであつて、その取払い後も原告等は本件土地を耕作したこともなく、又他人に小作させたり農耕地として使用させたことはない。而も昭和七年四月五日には沼津税務署の検分により、地目を宅地に変換され爾来現在まで宅地として地租を納入しているものである。訴外石川亥作が昭和六年に小作料を年一俵と定めて本件土地を原告等より賃借したとの主張は事実に反する。従つてたとえ右石川が本件土地を耕作しているとしても、それは権利に基かない不法耕作であるから本件土地は依然として宅地である。仮に農地であるとしても小作地ではない。

(2)  被告は本件裁決に於て本件土地は自創法第三条第一項第一号該当の不在地主の小作地であるが、若し然らずとしても同条第五項第六号該当の権原を有する者の不耕作地であるとして計画を維持したが、これは事実を確定せずに買収をなすことに帰し買収の根拠要件を欠く違法のものであり、更に右一項一号所定の要件と右五項六号所定の要件とは夫々相互矛盾するものであるから、同一土地に対して相互矛盾する事実認定をなしたことになり、結局法規の適用を誤つた結果をあらわしている。

(3)  尚本件土地は繁華街の裏通りで三方は宅地であるから当然買収除外区域として指定すべき土地である。然るに本件買収計画はこれを無視して樹立した違法がある。

と述べた。(証拠省略)

被告指定代理人等は「原告等の請求を棄却する」との判決を求め答弁として本件土地が自創法第三条第一項第一号に該当するものとして三島地区農業委員会が買収計画に編入し、之に対し原告等より異議訴願をなしたるも夫々異議却下の決定及び訴願棄却の裁決のあつたことはこれを認めるが、本件土地の現況が宅地であること若し然らずとしても原告等と訴外石川亥作との間に本件土地の賃貸借の約定はなかつたとの主張事実はこれを争う。元来訴外石川亥作は本件土地の周辺の田地を原告等より小作料玄米十五俵で賃借していたところ、昭和六年になり更に本件土地を耕作の目的で小作料を年玄米一俵とし期限の定めのない約定で借受け爾来耕作地として使用してきたものであり、同人の死亡によりその子石川憲一において右賃借権を相続して引続き本件土地を耕作しているのであるから、本件土地は正に自創法第三条第一項第一号の小作地である。次に原告は本件土地はその位置環境上よりみて当然同法第五条第五号に該当する土地として、買収除外農地の指定を受くべきものであるのに、その指定をなさずに買収をなした違法があると主張するが、本件に於ては原告等は未だ右第五条第五号の指定申請の手続をなしていないのであるからたとえ、本件土地が買収除外農地として指定するを相当とする土地であろうとも、これを理由に本件買収計画の違法を攻撃することはできないと述べた。

(証拠省略)

三、理  由

三島市字二ノ乗三十八番地の三宅地九十四坪五合五勺が原告等の共有に係るものであることは被告の明らかに争わぬところであり、右土地に対し三島地区農業委員会が昭和二十四年九月七日現況畑と認めて、自創法第三条第一項第一号に該当する土地として買収計画を定めたので、原告等は同月十三日同委員会に対し、異議申立をなしたところ、同年九月二十七日却下せられ、次いで同年十月六日に原告等の提起した訴願も、亦昭和二十五年二月二十八日付を以て被告委員会より棄却せられ、その裁決書が同年三月十日に原告等に到達したことは両当事者間に争のないところである。

そこで先づ原告等は本件土地は宅地であつて農地でないと主張するのでこの点について判断するに凡そある土地が農地であるか或は宅地であるかは土地台帳の地目如何や土地の所有者或は使用者の主観的使用目的に関係なく、もつぱら客観的に土地の状況耕作の内容態様等各般の客観的事情を観察して判断せらるべきものなるところ証人渡辺善四郎同鈴木一郎同渡辺定平の各証言及び検証(昭和二十五年六月三日施行)の結果を綜合すれば本件土地は三島市の市街地に存在し附近に住家多く立ち並び元宅地として使用されていたものではあるがすでに戦時中より訴外石川亥作その子憲一らに於て、麦蔬菜畑として利用し、本件買収計画樹立のときに至るまで継続して耕作地として肥培管理がなされまた供出の対象地として取扱われすなわち直接耕作の目的に供せられて来た土地であることをみとめ得べく右認定を左右するに足る反証はない、そうすると本件土地は買収対象地たりうる土地であるか否かはしばらく措き、少くとも農地法に謂う、いわゆる農地であつて宅地でないものと断ずるを相当とするから本件土地が宅地である旨の原告の前記主張は理由ないものと言わなければならない。

次に本件係争地は小作地ではないとの原告の主張に対し、被告は訴外石川憲一の先代亡石川亥作が昭和六年頃より、これを原告等により賃借しているものであると抗争するので、この点について考えると証人小栗正二の証言によりその成立の認められる甲第三号証の二同第四号証の二成立に争のない甲第八号証の一乃至五証人小栗正二同松本周作同小沢藤作同塩坂峰吉同植野覚太郎同水口瑞志の各証言を綜合して考えると、原告等は大正十四年頃本件土地を松本周作の仲介により訴外塩坂簑吉に坪数七十坪として賃貸し、昭和二年には地代を坪六十銭に変更したこと、右塩坂はその地上に作業小屋を建てコンクリート製造業を営んだこと、昭和六年度及び昭和七年度に於ては右地代として夫々十二月三十日に金四十円宛の支払をなしたこと、昭和七年度に於て本件土地は地目を宅地に変更され爾来宅地としての地租を納入していたこと右塩坂が昭和九年死亡した後は、その女婿訴外長谷川鉄太郎がその業をつぎ昭和十二年頃まで同所の地代を原告等に納入し依然建物敷地として使用して来たこと、然るにその後長谷川が右土地の使用を廃止し、これを空地として放置していたところ、たまたま前記訴外石川亥作がその周辺の耕作地を原告等より賃借小作していた関係上いつしか本件土地をも無断で掘起し耕作しついに農地として利用するに至つたこと、すなわち原告等は本件土地を右石川亥作に賃貸して小作料を徴したことのないのは、勿論同人がこれを耕作することを暗黙に承認したこともないことを認めることができる。

右認定に反する証人石川憲一(第一、二回)同石川清雄同渡辺博の各証言は措信し難く乙第一号証の三乃至五乙第二号証によつては未だ右訴外石川亥作が昭和六年頃より本件土地を玄米一俵の小作料で賃借小作した旨の被告の主張事実を認むるに足りない。他に右認定を覆して原告等と右石川亥作との間に本件土地に付小作契約のあつたことを首肯するに足る措信すべき証拠はない。果して然りとすれば右亥作の賃借権を相続したと主張する石川憲一は本件土地に対し賃借権を有しないこと明らかであるから、本件土地が右石川憲一に於て耕作権を有する小作地であるとしてなした本件買収計画は違法であり従つてこれに対する原告等の訴願を棄却して右買収計画を維持した本件裁決もまた違法たること明らかであるよつてこれが取消を求める原告等の本訴請求はこれを正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条に則り被告をして全部負担せしむべきものとして主文の通り判決する。

(裁判官 戸塚敬造 田嶋重徳 小河八十次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!